猛暑の“長期化”に備える!設備整備とICT活用でつくる安全な学習環境
20面記事
2025年度の最新データから考える、今すぐ必要な学校の暑さ対策
もはや熱中症は「真夏だけの問題」ではなくなった。学校管理下でも、WBGT(暑さ指数)が急上昇する初夏や残暑の9月に事故が増えており、授業・部活動の実施可否判断に追われる教職員の負担が増大している。本特集では、最新データと学校現場の課題を踏まえ、教育委員会・学校が今すぐ導入すべき熱中症予防策を提示する。
「長期化する高温」と熱中症リスク
日本の夏は年々厳しさを増し、平均気温は3年連続で過去最高を更新。しかも、地球温暖化の影響で高温の日が長期間続く傾向が強まり、学校現場ではこれまで以上に計画的で実効性のある熱中症対策が欠かせない状況になっている。
昨年も6~8月の平均気温は平年より+2・36度と歴代最高を記録し、最高気温40度以上の地点数は30地点、猛暑日地点数は9千地点を超え、いずれも過去最多となった。さらに、群馬県伊勢崎市では41・8度という国内歴代最高気温が観測され、全国的に「これまでの常識が通用しない暑さ」が続いた。
こうした異常な高温は、熱中症搬送者数にも如実に表れている。総務省消防庁の確定値によれば、2025年5~9月の全国の熱中症搬送者数は、調査開始以降初めて10万人を超えた。特に6月の搬送者数は1万7229人と月別で過去最多を記録し、例年より早い段階から危険な暑さが始まったことが分かる。9月も高温が続き、残暑による搬送者数は1万人に迫るなど過去2番目の多さであった。
さらに、10月中旬を過ぎても猛暑日を記録した地域があり、もはや熱中症は「真夏だけの問題」ではなくなっている。今後も春と秋が短くなり、夏と冬の二季化が進むことが予想されており、学校現場は長期間にわたり熱中症リスクと向き合う必要が生じている。
学校管理下で増える熱中症事故~初夏と残暑に集中する危険な傾向~
日本気象協会の発表によると、2026年の夏は全国的に平年より高い気温となり、昨年に引き続き厳しい暑さが予想されている。特に九州から関東では気温の上がりやすい状態が続き、脱水症の要因となる湿度も高めになるため注意したい。
しかも、梅雨入り・梅雨明けがともに早まり、6月~8月を通して気温の高い傾向が続き、9月以降も全国の延べ7~14地点で40度以上の「酷暑日」が観測される見込みだ。
こうした中、学校管理下における熱中症発生件数は、毎年5千件程度発生しているが、「長期化する高温」が常態化する中で、必ずしも真夏のピークに集中しているわけではないことを肝に銘じておきたい。むしろ、WBGTが急上昇する初夏の5~6月、そして残暑が厳しい9月に事故が増える傾向が指摘されている。
初夏は身体が暑さに慣れていないため、気温が急上昇すると熱中症リスクが一気に高まる。とりわけ、子どもは体温調節機能が十分に発達していないことから、暑熱順化の獲得に時間がかかる。昨年6月の搬送者数が過去最多となった背景には、このように梅雨明けが早く、6月後半から猛暑日が続出したことがある。学校では体育の授業や部活動が本格化する時期であり、屋外活動の増加と気温上昇が重なった。
一方、9月は「夏休み明けの再始動」と「残暑の厳しさ」が重なる。昨年9月に搬送者数が例年以上に増加したのは、学校行事や運動会の練習が集中する時期と重なったことが影響している。
経験則に依存しない、科学的根拠に基づく判断を
加えて、学校管理下の熱中症事故には、児童生徒が自覚症状を訴えにくい特性や、毎年の行事・活動を「例年通りに実施したい」という同調圧力が背景にある。特に部活動では、指導者が「これまでも大丈夫だった」という経験則に依存し、危険な環境下でも活動を継続してしまう事例が今も後を絶たない。
だが、気温・湿度・WBGTは年々上昇傾向にあり、過去の経験はもはや安全の根拠とはならない。熱中症は適切な判断が数分遅れるだけで重篤化するリスクが高く、従来の感覚的な指導では対応しきれない。教育関係者は、科学的根拠に基づく判断を徹底し、気象条件の確認、活動強度の調整、こまめな休息と水分補給、早期の中断判断を組織的に行う必要がある。経験ではなくデータと仕組みで安全を守る姿勢が、今まさに求められているのだ。
学校現場が抱える課題~判断負担の増大と設備不足~
猛暑の長期化により、学校では授業・部活動の運営判断を迫られる場面が増えている。
「今日は活動してよいのか」「どの時間帯なら安全か」「どの程度の休憩を確保すべきか」など、教職員の判断負担は年々増大している。しかし、現場には次のような課題が残されている。
・体育館空調の未整備:体育館は学校で最も熱がこもりやすい空間であるにもかかわらず、全国的に空調整備率は依然として低い。夏季の体育館は外気温より高温になることも多く、部活動や集会での熱中症リスクが高い。このため、夏季は体育館の使用を控える学校が年々増え、授業にも支障を来す事態となっている。
・特別教室の空調未整備:国の補正予算により普通教室の空調整備は全国的に進んだが、老朽化した学校では理科室や音楽室など特別教室への空調整備が済んでいない学校も多い。
・WBGT測定の徹底不足:WBGTは熱中症リスクを判断する最も有効な指標であるが、学校によっては測定器が不足していたり、活用が徹底されていなかったりするケースがある。また、「原則として屋外活動を中止する」指標として、環境省と気象庁が共同で発表する「熱中症警戒アラート」(前日の17時頃と当日の5時頃の計2回発表)を、学校行事の実施可否、体育の授業計画、部活動の練習時間帯などに活用していない学校も見られる。
・水分補給環境の不十分さ:冷水機の不足、給水タイミングの指導不足、塩分補給の理解不足など、児童生徒が適切に水分補給できる環境が整っていない学校も多い。
・ICTを活用した体調管理の遅れ:ウェアラブル端末やクラウド型環境モニタリングなど、最新技術を活用した体調管理は一部の自治体で導入が進むものの、全国的にはまだ普及途上である。
今後の学校に必要な熱中症予防~設備×ICT×指導の総合対策へ~
こうした中で、今後学校に求められるのは、設備・ICT・指導を組み合わせた総合的な熱中症対策になる。
まず、今すぐ導入すべき対策としては、WBGT測定の常時測定と活動基準の明確化が挙げられる。WBGTは気温・湿度・放射熱を総合的に評価する指標であり、熱中症リスク判断に不可欠だ。特に2025年のように気温が急上昇する年では、「感覚」ではなく「数値」で判断する体制が求められる。
WBGTを学校の活動基準として活用するためには、校庭・体育館・特別教室など複数地点での測定、クラウド型環境モニタリングによるリアルタイム共有、活動中止基準の明文化など、教職員・児童生徒へのWBGT教育が必要であり、これらを徹底することで判断負担を軽減し、事故を未然に防ぐことができる。
次に、空調・換気・冷却設備の整備も重要になる。中でも体育館空調の整備は最も優先度が高い設備投資であり、部活動の安全性向上、授業の質改善、避難所としての機能強化にもつながる。
運動会や屋外活動での熱中症リスクを大幅に軽減するためには、遮熱テント、ミストファン、スポットクーラーを取り入れたい。また、大型扇風機・気化式冷風機は、体育館や部室の熱気滞留を改善することができる。
無断熱な教室はエアコンが効かない
さらに、大半の学校施設は建築年代が古く、無断熱のままであるケースが多い。窓面積が大きい構造も相まって、外気の熱がそのまま侵入し、エアコンを稼働しても室温が下がりにくい。そのため、屋上直下の教室や陽射しが強く入る教室では、猛暑日にいくらエアコンを稼働させても30度以下に下がらないといったケースも現れている。こうしたことから、外壁や屋根などの断熱化工事を行う必要が生まれているが、財政負担が重くのしかかり、おいそれと大規模改修工事は行えないのが現実だ。
例えば、教室の窓を複層ガラスへ交換するだけでも、冷房効率が大幅に向上するほか、放射熱を反射させる遮蔽シートを貼る工夫を用いることで、応急的に人体の体感温度を抑えることもできる。一部の学校では環境条件の悪い教室を、地域の工務店などの支援により、教職員や保護者と手づくりで断熱改修を進めるケースも見られるようになっている。

エアコンを稼働しても30度を切らない教室が増加
環境モニタリングが変える安全管理
水分補給環境の改善とルールの明文化
水分補給環境の改善では、冷水機の増設、経口補水液の常備、塩分補給タブレットの活用、水分補給ルールの明文化など、多面的な取り組みが求められる。現在では児童生徒が給水用マイボトルを持ち込むことが一般化しているが、単に「持参させる」だけでは不十分だ。授業中でも自由に飲めるようにする、教室内の「飲水可」の掲示を徹底するなど、学校全体で水分補給を推奨する文化をつくる必要がある。
特に、クーラーの効いた教室では汗をかきにくく、喉の渇きを自覚しにくい「かくれ脱水」が起こりやすい。涼しい環境にいるからといって安全とは限らず、体内の水分は確実に失われていく。教員が意識的に声かけを行い、児童生徒がいつでも飲みたいときに摂取できる環境づくりを進めることが重要だ。
また、冷水機は真夏でも飲みやすい冷水を大量に提供できるため、児童生徒の水分補給率を大きく改善する効果がある。マイボトルの補充にも活用でき、休み時間の混雑緩和にもつながる。

マイボトルで水分補給する児童
児童生徒への注意喚起を促すツールも
学校管理下における熱中症発生件数の約6割を占めるのが、部活動中だ。この予防策として、ウェアラブル端末を活用した体調モニタリングが注目されている。
熱中症の発生リスクは暑さへの耐性や体調によって異なるため、従来は指導者の経験や児童生徒の自己申告に頼っていたが、運動中は本人が異変に気付きにくく、教員も複数名の状態を同時に把握することは難しい。こうした課題を補う手段として、ウェアラブル端末は有効な安全管理ツールとなりつつある。
実際、リストバンド型のウェアラブル端末は、暑熱リスクの高い環境下で作業する従業員の安全を守る装置として、今や多くの企業が支給するようになっている。また、学校においても、激しい運動を伴うサッカーやラグビー、陸上などの夏季練習で活用するところが増えている。
導入後は、「練習中の無理のしすぎが減り、熱中症の疑いによる救護件数が減少した」「練習メニューの組み替えや休憩時間の最適化が可能となり、熱中症リスクの低減に寄与している」など、効果が現れている。
多くの端末は心拍数や皮膚温を常時計測し、急激な上昇や異常値を検知するとアラートを発する。熱中症の初期兆候は心拍の上昇として現れることが多く、本人が自覚するより早く危険を察知できる点が大きい。
一部の高機能モデルでは、運動量や心拍データから発汗量を推定し、水分補給のタイミングを通知する機能を備える。部活動では「飲み忘れ」が事故につながるため、客観的な補給指示は安全確保に有効である。また、GPSや加速度センサーにより、走行距離、運動強度、休憩時間などを可視化できるタイプもある。過度な負荷がかかっている児童生徒を早期に把握し、練習メニューの調整につなげられる。
さらに、クラウドと連動するタイプでは、複数の生徒のデータを指導者が一括で確認できる。異常値が出た児童生徒を即座に特定し、練習中断や救護対応に移れるため、事故の重篤化を防ぐ効果が高い。端末が危険を検知すると、本人だけでなく指導者側にも通知が届くことにより、「頑張りすぎてしまう生徒」や「気付くのが遅れる指導者」の双方を補完し、科学的根拠に基づく活動中断が可能となる。
このように、学校全体で水分補給環境を整備し、ICTを活用した体調管理を組み合わせることで、熱中症リスクを大幅に低減できる。
「暑さに気付くのが遅れた」という事故を防ぐ
「暑さに気付くのが遅れた」という事故を防ぐためには、教員の経験や勘に頼る従来型の安全管理から脱却し、客観的データに基づく判断へと転換する必要がある。
近年、校務DXやクラウド活用が学校文化として定着しつつある中、クラウド型環境モニタリングを導入することで、学校は「環境」と「体調」の両面から熱中症リスクを把握できるようになってきた。温度・湿度・CO2濃度・WBGTをセンサーで常時計測し、クラウドに自動送信する仕組みを整えれば、異常値が出た教室を即座に把握し、空調の早期稼働や換気の指示につなげることができる。教員が多忙な中で暑さの変化に気付くのが遅れ、児童生徒の体調悪化を招くといった事故を未然に防ぐ効果は大きい。
さらに、校庭や体育館にもWBGTセンサーを設置すれば、体育授業や運動部活動の可否判断に活用できる。一定値を超えると教員の端末にアラートが届く仕組みが一般化しており、危険な環境下での活動継続を防ぐ「ストッパー」として機能する。
最近では、センサー値をもとにAIがリスクレベルを算出し、水分補給のタイミング、運動量の調整、屋外活動の中止基準を自動で提示するシステムも登場している。こうした仕組みは、経験豊富な指導者だけでなく、若手教員や外部指導者でも安全に判断できる環境づくりに寄与する。
加えて、AI・データ分析の高度化により、過去の環境データと気象データを組み合わせた熱中症リスク予測も可能になりつつある。時間帯別の危険度予測、季節ごとの傾向分析、学校行事の安全判断など、事前の計画段階でリスクを見通すことができる点は大きな利点だ。「何時頃に体育を実施するか」「運動会の競技順序をどう組むか」「校外学習の出発時間をどう調整するか」といった判断にも、科学的根拠を持たせることができる。

クラウド型環境モニタリングで全教室の状況を一覧で確認
ICT活用で誰でも安全に指導できる学校へ
すなわち、ICTを賢く活用することで、教員の経験に依存せず、客観的な基準に基づく安全管理が可能となる。熱中症事故は「気付くのが遅れた」ことが重篤化の大きな要因となるため、リアルタイムのデータ監視とアラート機能は、学校にとって不可欠な安全装置である。猛暑日が年々増加かつ長期化する中で、今後、学校現場は経験則から科学的根拠へと判断基準を転換し、誰が指導しても安全が確保される仕組みを整えることが求められている。

