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視点 Opinion【第18回】

2面記事

解説

いじめと指導要領 「行為」と「心」学ぶ授業を
冨永 良喜 兵庫教育大学名誉教授

 道徳が「特別の教科」となってから初めての本格的学習指導要領改訂作業が進んでいる。「特別の教科」の狙いの一つは、いじめ防止。心理学者の冨永良喜氏は、次期学習指導要領では、「行為」と「心」に関する学習を充実させるよう提唱している。(この記事は、いじめ・不登校問題を考える際の参考資料として2月末まで全文を公開します)

 次期指導要領について審議している中央教育審議会の道徳ワーキンググループでは道徳科の目標は現行通りと提案しているが、目標に「道徳的行為を主体的に選択する力」を加えることを提案したい。
 いじめは災害と同じく、子どもにとって危機であり、まず保障されるべきは被害者や目撃者の安全の確保である。逃げる、助けを求めることは、安全を守る正当な行為である。いじめ防止は被害者の安全確保と回復支援、加害者の行為変容という「行為」を目的としなければ成立しない。
 文科省・道徳教育アーカイブの小・中学校計16件のいじめ防止授業実践例では、小学校の1件を除き、自他尊重行為の体験的学習の例示は確認されなかった。
 また、道徳科の目標に「道徳的行為」の記載がないためか、授業者が道徳的価値を主発問にし、被害者・目撃者の安全が確保されない授業案も見られた。
 いじめ防止に効果のある社会情動学習(Social and Emotional Learning:SEL)は、いじめ加害を対人関係スキルの不足と考え、感情を自己調整し、他者に共感し、自他尊重の対人関係スキルを養い、いじめ被害者と目撃者の心理的安全性を確保し、「その行為は良くない」と多数の子が表明できる集団の育成も目指している。
 この提案は、不登校で苦しむ子どもを減じる可能性も高める。文科省の不登校経験者調査では、20歳時に中学3年時を振り返り「あればよかった支援」の第1位は「心の悩みについての相談」、第2位は「自分の気持ちを表現し、人とうまくつきあう方法の指導」であった。
 危機予防の道徳授業は教員とスクールカウンセラー(SC)の共同によるものが望ましい。SCの常勤化も必須である。
 心の健康授業の時間的不足も深刻である。現行の学習指導要領では、心の健康やストレス対処を学ぶ機会は、小学5年と中学1年の保健分野の計7時間にとどまる。
 欧米諸国では幼児期や小学校低学年からSELが制度化され、韓国でも全学年10時間のSELを、SC常勤化とセットで展開し始めている。
 全学年で、体育ではメンタルトレーニングを、保健ではストレスやトラウマを科学として学び、道徳では道徳的価値と共に、困難への対処法、自他尊重の行為を学ぶことを提案する。
 本稿で示した提案は、効果的ないじめ防止授業の実践と不登校で苦しむ子の減少につながる。

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