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国内産小麦を通して「食」や「地域」への理解を

14面記事

企画特集

小麦畑に入り「麦踏み」を体験する研修会参加者たち

栄養教諭を対象に国内産小麦に関する研修会を開催

 学校給食における地場産物の活用が進められていることから、全国の約8割の学校給食で国内産小麦の導入が進められている(平成29年度日本教育新聞社調査より)。日本教育新聞社は、国内産小麦についての正しい知識を知り教育活動の中で生かしてもらうことで、子どもたちの「食」や「地域」に対する理解を深めることを目的として、平成30年度に栄養教諭等を対象に「国内産小麦に関する研修会」を開催した。

生産者の思いから授業での活用を考える
静岡県袋井市

小麦ができるまでの苦労
 平成31年2月4日に袋井市で開催された研修会では、まず最初に小麦を栽培している生産者の立場から、国内産小麦のできるまでの過程や苦労についての話を聞いた。市内で農家を営む長谷川政二さんは米を中心に生産しているが、「需給調整のため市から農地を転作するよう指導されています」と説明。高齢化など農業の担い手が年々厳しくなる中で、現在は9ヘクタールの畑で「きぬあかり」という品種の小麦をつくっているという。
 広大な畑で作る北海道と違って、静岡県の小麦は水分含有量をいかに低く抑え、さらさらとした小麦を作るかがカギになる。そのため、栽培スケジュールとしては11月中旬に種を蒔き、翌年の5月末から6月上旬に収穫する。「種蒔き時期は雨量が多いため天気予報をチェックしたり、収穫も梅雨に入ってしまうと品質が落ちるため、その前に刈り取りしたりするなどタイミングが重要になります」と話す。
 さらに、小麦の成長にとって欠かせないのが、1月に行う麦踏みだ。「芽が出たあとに葉や茎を踏んで力を加えることで、根っこをしっかりと育ててあげる。また、これをすることで1本の根元から左右に茎が分かれて伸びる『分けつ』を促すことができます」と小麦栽培の特徴を解説した。


袋井市の農家 長谷川政二さん

「地場産物」をもっと学校給食に
 こうして生産された小麦は市内の学校給食でも使われていることから、地場産物の活用にも触れた。「気候に恵まれた静岡県はさまざまな作物の栽培に適していますが、お茶以外はほぼ県外産に頼っています。それは県外で多く作られるハウス栽培の方が、天候に左右される静岡県の露地野菜よりも、1年を通じて安定供給できるからです」と指摘。また、地域特産のブランド野菜も生産量が限られているため、ほとんどが需要の多い他県に出荷されてしまう現実も話した。
 それでも、これからの学校給食には地元で採れた食材をなるべく取り入れてほしいと長谷川さん。「生産者の顔が見えることが、子どもたちにとっても安全・安心な食物の提供につながると思っています。また、子どもたちに旬の食材のおいしさを感じてもらうことは、地域の理解にもつながると思います」と訴えた。

実際に「麦踏み」を体験
 続いて、麦踏みを体験するため、長谷川さんの小麦畑に移動。草丈が15cmほど成長した青々と茂った畑に入った参加者たちは、「踏んだ感触が気持ちいい」「子どもがやったらよろこぶと思う」と口々に話しながら、初めての麦踏みを楽しんだ。
 袋井市は小学校で小麦栽培の体験に取り組んでいるところも多く、収穫した小麦でホットケーキを作って食べる学校もある。昨年小麦を題材にした授業を行った参加者は、「自分で麦踏みを経験したことで、子どもたちに説得力のある話ができると思う」と話す。

小麦からグルテンを取り出す実験も
 次に小麦粉からたんぱく質であるグルテンを取り出す体験を行った。小麦は米やトウモロコシに比べてもたんぱく質が6~15%と多い。水を加えてこね、湯に10分程度つけた後、水の中で揉むと、グルテンという粘弾性のある物質が取り出せるようになる。「ツルツルしている」「ガムみたい」と参加者たち。しかし、これがパンのふっくら感やうどんのコシを作り出していると聞くと、「なるほど」という声が一斉にもれた。
 最後に、日本教育新聞社が制作を進めている小学5年生を対象とした冊子教材「“小麦”って何だろう?」について、参加者に意見を聞いた。「グルテン作りで子どもたちの興味関心を引くところからスタートすれば、栄養素や食品など学ばせたいねらいへ近づけることができるのでは」「食育だけでなく、社会科や総合的な学習の時間など教科横断的な使い方が考えられる」など、国内産小麦への理解とともに授業での活用にも意欲が生まれたようだ。


水で洗うとでんぷん質が流れ出し、ゴム状のグルテンが取り出せる

小麦の製粉と地元食材について学ぶ
福島県郡山市

製粉工場見学
 平成30年11月20日、福島県の栄養教諭が集い、国内産小麦に関する研修会を開催した。
 会場は福島県第2の都市、郡山市。阿部製粉株式会社は、市の中心に近い位置に立地する製粉会社だ。戦後間もなく創業し、子どもたちや地域の人々をはじめ、教育関係者の工場見学も受け入れるなど、地域の交流に積極的だ。海外産の小麦に加えて、地元福島県、北海道、宮城県産の小麦を製粉して全国に納品している。
 研修会の最初は、製粉工場で製粉の過程を見学した。


6階建ての阿部製粉(株)。製粉工場は高い建物となることが多い

 小麦の製粉は「精選工程」「挽砕(ばんさい)工程」「製品工程」の3つに分かれる。
 「精選工程」は、重さの違いを利用して、仕入れた小麦粒に混入している小石や未熟な小麦粒を除き、精選された小麦粒を磨いて綺麗にする。その後、小麦粒1トンに対して200リットル程の水を加え、乾燥した小麦粒を加工しやすい状態に調整する。「挽砕工程」では、水を加えたことで柔らかくなった小麦粒を、ロール製粉機で細かくし、ふるいにかけて皮を取り除く。複数回ロール機でさらに細かくしてふるいにかける工程を繰り返すことで、小麦を40種類ほどの質や色味の異なる小麦粉に製粉し、1等粉、2等粉、3等粉に分ける。「製品工程」では、重量チェックと金属チェックを通過した小麦粉を梱包し、立体倉庫に格納する。
 阿部製粉の社員から、小麦の状態は湿度や温度により状態が変化するため、加水の調整や機械の制御を集中管理で行っていること、小麦の製粉は高所からの自由落下を利用してふるいや搬送等を行うため、製粉工場は高い建物となることが多いことなどの説明を聞きながら、1時間の見学を終えた。


上階から落ちてくるさまざまな状態の小麦は、ロール製粉機でより細かくされていく

小麦の食べ比べ体験
 次に、海外産小麦を100%使用したうどんと、福島県産の小麦「きぬあずま」を配合したうどんの食べ比べを行った。国内産小麦は改良が進み、現在では外国産小麦と遜色ない品種が開発されており、「きぬあずま」もその一つ。福島県の学校給食では国内産小麦を主食に使用しておらず、はじめて「きぬあずま」のうどんを食べた参加者から「『きぬあずま』はもちもちした食感」「外国産との違いが分からない」などさまざまな声があがった。他にも「ゆきちから」を配合したパンの試食も行った。
 研修会の最後に、小学校5年生を対象にした冊子教材「“小麦”って何だろう?」の改訂に向けた検討会を実施した。
 参加者はグループに分かれ、指導場面やねらいを想定しながら、各ページについて意見を交換し合う。チームティーチングや担任教員による指導の場合など、栄養教諭ならではの視点から意見が多くだされた。
 研修会を終え、参加者からは「小麦について未知の部分もあり、自分自身にとっても勉強になった。給食だよりでの掲載や給食指導に生かしたい」「阿部製粉の近くを通るたびに、工場を見学したいと考えていたので、研修会は良い機会だった。給食指導で話す材料をたくさん得ることができた」との声があがった。


冊子教材「“小麦”って何だろう?」の活用について意見を交換し合う

5年生対象の冊子教材「“小麦”って何だろう?」
小麦を生産している主な地域の小学校に無料配布を開始
社会科との関連付けや地域への理解・関心を育む

 日本教育新聞社では、国内産小麦に関する情報を学校現場に提供し、食育の一環として授業で活用してもらうことを目的に、小学5年生を対象とした冊子教材「“小麦”って何だろう?」を制作し、小麦を生産している主な地域の小学校約300校に無料配布を開始する。
 「“小麦”って何だろう?」は、平成29年度日本教育新聞社調査にて最も授業が実施されていた小学5年生を主な対象に、国内産小麦の理解を促すため、生産、販売、流通、栄養などあらゆる角度から解説した教材になっているのが特徴だ。
 A4版20頁のオールカラーで写真やイラストを多用。小麦の種類と栄養価、日本での食料自給率、国内産小麦の生産量など基礎的なデータから、小麦を使った料理の一覧、小麦ができるまでや、国内産小麦が食卓に届くまでの工程、世界で食べられている小麦料理、日本で食べられている小麦粉の郷土料理、あるいは小麦の新しい品種を完成させて世界の食糧危機を救った日本人の紹介まで。身近な食品としての知識はもちろん、社会科との関連付けや地域への理解・関心を育める内容になっている。


「“小麦”って何だろう?」表紙

 無料配布の問い合わせ=日本教育新聞社 Tel03・3280・7058

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