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GIGAスクール 各地で動き活発に 自治体の取り組みを紹介

7面記事

ICT教育特集

渋谷区が考える未来の学校

 GIGAスクール構想による児童生徒1人1台のPC配付が進められている。新学習指導要領で求められている主体的・対話的で深い学びについて、ICTを活用してどのように実現し、児童生徒の力を育成していくのか。また、そのための準備や研修のあり方とは。いくつかの自治体の取り組みを紹介する。

「渋谷区モデル」を全面的に再構築 校務支援システムの利便性を向上
東京都渋谷区

見直しの視点を明確化
 東京渋谷区は、平成29年9月から1人1台タブレットを児童生徒に渡して学習活動を展開する「渋谷区モデル」を実施している。本年9月には、より質の高い学習環境を提供することを狙い全面的に再構築した。それまでのLTE回線に加えて、Wi―Fi環境を整備。各教室にアクセスポイントを2カ所設置し通信環境を向上させたほか、校務支援システムの利便性も高め、教職員の働き方改革にも資する考えだ。
 「渋谷区モデル」の今回のリニューアルは、PCのリース替え(3年契約)に合わせた形だが、情報機器・環境の進化に合わせた見直しは常に必要と言える。渋谷区では、「児童生徒1人1台、どこでも使える」といったコンセプト自体は引き継ぎながら、通信量の向上などの対応を図った。
 具体的には、

 (1) 学習環境の整備(遠隔授業等も含め)
 (2) セキュリティと将来性を踏まえた安定的な運用
 (3) 教職員が本来業務に専念できる環境の提供

 ―といった視点から見直しを進めた。これまでの取り組みの中で現場から上がった声の一つが「校務支援システムの機能をもっと使いやすく」というもの。児童生徒の成績など個人情報に関するものはセキュリティが堅牢なため、ログインまでにどうしても時間が掛かっていた。新しいモデルでは、アプリケーションで入力すれば個人情報系が同期する仕組み。出欠管理や保健室の利用状況なども連動する。
 さらに、今後は学校と保護者をつなぐ連絡ツールも整備する。保護者がスマホなどで欠席の入力をすればデジタル出席簿に欠席と理由が反映され、個人情報系とも同期するアプリを実装させる計画だ。学級通信などを配信できるように進めていきたいとしている。

PC1台で対応できるシステムを構築
 また、「例えば、副校長は現在、行事や教職員の出張、有給などを職員室の黒板に書きながら、日誌にも書き、有給処理をチェックするといった作業がある。それについても、教職員が一回入力すればそれぞれ反映されるシステムの構築を進めている」(渋谷区教委)という。全国的には、教職員が使用するPCは、学習用と校務用の2台になっていることも多く、行政とのやりとりのためにもう1台必要な場合も少なくない。その点、渋谷区では1台で全て対応できるようにし、利便性を向上させた。また、今回の臨時休校期間中は成績処理などのために教職員が出勤せざるを得ない例もあったが、新たなシステムでは今後自宅待機になっても、学校に出勤せずに校務処理が可能になった。
 教職員のPCは顔認証とID、パスワードでログインするため、PCを紛失したとしても情報漏えいすることはない。また、データは自動的に暗号化されるため、児童生徒用の資料等に関してはラベルを外して配布する。教職員用の資料を間違って配ったとしても、児童生徒が見ることはできない。ネットワークは個人情報系、教職員の人事、学習系に分離されており、児童生徒は学習系にしかアクセスできない。学びの保障への対応も
 渋谷区では、Microsoft Teamsを全校で利用できるようにアカウントを取得。新型コロナウイルス感染予防のための休校期間中も、Teamsを使って各学校で家庭学習を進めていた。各学校現場では、朝の会やホームルーム、質問タイムをTeamsでつないで実施した。ある学校では、子どもたちは自宅で時間割に合わせてタブレットからログインし、教員も自宅からログインしてデジタル教科書を共有しながら授業した例もあったという。
 また、分散登校の時期には、自宅待機のグループはTeamsにログインし、教室での授業をリアルタイムで受ける学習形式も試行している。今後は、外部とつないだ遠隔交流授業なども計画されているほか、不登校の児童生徒支援も検討している。渋谷区は「今後、児童生徒が新型コロナに感染することもあり得る。2週間隔離となった場合の学習の保障として、Teamsで授業に参加したり、授業の動画を後から見たりするといった使い方も想定できる」としている。

小中学生へ1人1台PCを配布 ICTを活用した学習環境を整備
東京都豊島区


実際に配布されたタブレットPC

 豊島区は、「GIGAスクール構想」の基盤となる「小・中学生1人1台タブレットパソコン貸与」にかかるICT環境の整備を以前から進めており、9月中に区内30校の全児童生徒分11481台の配布が完了した。
 ICT環境整備・活用事業経費として、5月に11億5千万円の補正予算を計上し、8月下旬から各校で順次配布を実施。
 豊島区教委 教育部庶務課長副島由理氏によると、昨年度末当初は、2年計画で校内のWi―FiやPCなどの整備を進めていく予定だったという。しかし本年、コロナ禍で学校が臨時休校となり、子どもの学習権を保障するため予定より急ピッチで整備を進める必要があった。また、校内でWi―Fi整備をすると費用もかかることから、LTE回線を利用して、学校や家庭で学習ツールとなるICT環境整備を一気に進めることとなった。
 まずは、各家庭が所有するPCやスマートフォンを活用し、Googleの教育向けツール「G Suite for Education」を試行導入した。5月の登校日にアカウントを配布し、臨時休校中の児童生徒・家庭をつなぐことができた。この準備により、配布がスムーズになったという。
 現在、児童生徒は自分専用のタブレットを毎日持参して登校し、授業や自主学習に生かしている。「自分用のPCがあって、わくわくする」と学習に意欲を見せている。
 今後は、徐々に本格的な実習へと移行し、家庭でも学習状況やお知らせの確認、健康観察などから毎日使用し、学習の道具として定着させていく方針だ。
 問い合わせ・詳細=豊島区教委 教育部庶務課庶務グループ 電話03・3981・1141

各校代表によるワーキングチーム発足 実践を共有し現場にフィードバック
大阪府枚方市教委

 大阪府枚方市教委は、本年度内の市立小中学校の教職員や児童生徒への1人1台タブレット配付を予定している。1人1台タブレットの効果的な活用を図ることを目的に、同市教委は本年6月に、小中学校教員と指導主事等で構成する「情報教育推進ワーキングチーム」を立ち上げた。同ワーキングチームには、各校1人の代表者計64人と教育指導課、教育研修課のスタッフが所属。市内各校の優れた活用実践例を収集するとともに、全校に対して情報発信することを狙っている。
 同ワーキングチームは、64校を6つのグループ(中学校×2、小学校×4)に分けた「ユニット会議」を設けるとともに、各校代表者の中心となる「コアメンバー」16人を設定し、コア会議を開催。第2回からは教育研修課がある「教育文化センター」、教育指導課がある「輝きプラザきらら」とコアメンバーが所属する学校をつないだオンライン会議を重ねてきた。コア会議は基本的に毎週金曜日に開催し、オンライン会議システムや学習コンテンツ、授業でのICT機器の活用等について、継続的に実践発表を続けている。その内容はコアメンバーから各ユニットのメンバーへ、さらにメンバーの所属校教職員に情報発信している。
 また、7月に開催した第5回コア会議からは「チャット機能」を活用した質疑応答も導入。回を重ねるごとに活発となり、発表に対しての感想や質問で、理解がより深まっているようだ。実践発表もどんどん充実しており、例えば、第7回で報告された枚方第二小学校の、4年生と枚方市減量業務室とをリモートでつなぎ、オンラインで話し合いを行う「リモートサミット」には参加者の注目が集まった。
 会議では、他のコアメンバーの実践を自校の実践に取り入れる様子や、他の発表からヒントをもらって、自校の実践に生かすといった横のつながりも多く見られるようになっている。タブレットの使い方や研修内容などの発表も数多く行われ、例えば、校内にICT情報教育部を立ち上げ、児童生徒が効果的に活用できるように、まずは教職員同士でタブレットの操作について学び合う実践の報告もあった。スモールステップで学ぶことができるよう丁寧な取り組みも注目された。ほかにも「タブレット導入に向けたミニ体験会」を開催するなど、多くの教職員を巻き込んで推進していく様子も見られるようになったという。メンバーが作成した動画説明や活用報告などをユニット内で共有するなど、学校の垣根を越えた活用も進んでいるようだ。

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