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ことばと算数 その間違いにはワケがある

19面記事

書評

岩波科学ライブラリー312
広瀬 友紀 著
誤答の後ろに広がる子どもの世界

 前から順番に「あひる、ねずみ、くま、うさぎ、いぬ、ねこ」といった動物の全身像を描いたイラストを示した上で、顔の部分だけの動物のイラストについて「まえから□ばんめです」か、「うしろから□ばんめです」かを聞いた問題。1問目には「くまの顔」のイラスト。前から何番目かを聞いたところ、「1ばんめ」と答えた子どもがいる。全身像のイラストを基にすれば、前から「3ばんめ」が正解になるはずだが、この質問だけでなく、4問全て間違えた。なぜか。設問の中にくまの顔のイラストが最初に出たためだ。2問目はくまの顔のイラストを掲げ、後ろから何番目かを聞いた。後ろにある4問目のイラストの顔から数えて「うしろから3ばんめ」と解答し、×になった。
 数学者ではなく、言語学者である著者はこの誤答がなぜ生まれたかを解答者から聞き、全身像と顔だけのイラストを異なるものと受け止めたと知り、ソシュール(言語学者)の論を引きつつ「『記号』表現である場合と『実体』を直接示す場合とを直感で区別できるか6歳児!」とユーモラスに得心していく。
 なかなか想像しにくい誤答が全7章にちりばめられている。なぜ間違えるのかを考えていくのは痛快だ。「『採点したら不正解』パターンの背景にこそ豊かな思考や直感の世界が広がっている(こともある)」。本書で推薦する、別の著者らによる『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)も読みたくなった。
(1430円 岩波書店)
(矢)

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