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教員の質・量両面にわたる充実に向けて、教員免許状取得の弾力化を要望

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「免許外教科担任制度」の在り方を問う報告書から

 教育の質を確保するために「免許外教科担任制度」の在り方が問われる中、同制度を解消する方策について検討を進める調査研究協力者会議は昨年9月、近年の教員需要を踏まえ、教員免許状の取得要件の弾力化を求める報告書をとりまとめた。ここでは、その内容から改革の方向性を探った。

実技系教科を中心に、未だ1万件
 教員は、校種や教科に応じた免許状が必要というのが教員免許制度の原則になっている。「免許外教科担任制度」とは、ある教科の免許状を保有する教師を採用できない場合に、都道府県教育委員会の許可により、校内の他教科の教員が1年に限り、その教科を担任できる制度だ。
 この制度は昭和20年代に教員免許状を有する教師が全国的に不足する中で導入されたが、現在はやむを得ず配置する場合に限られており、教育委員会等の努力もあって制度の適用は大幅に減少している。
 しかし、平成28年度においても約1万件の制度利用があることから、具体的に削減する方策が議論されてきた。とりわけ、新学習指導要領が掲げる「主体的で対話的な深い学び」の実現に向けて、これからの教師にはより一層、各教科等の特質に応じた授業改善が求められている中で、教育の質を確保する意味でも、さらなる制度利用件数の縮小を図る意義は大きいといえる。
 ちなみに「免許外教科担任制度」を利用しているのは、中学校の美術、技術、家庭、高等学校の情報や職業に関する教科が中心になる。特に高等学校の情報科の数が多いのは、情報の免許を取得した学生の採用数が極めて低いことが要因になっているようだ。

免許外教科担任が減らない理由
 こうした中、近年になっても「免許外教科担任制度」の利用がなかなか減らない理由は、ベテラン教師の大量退職や少人数指導の導入、特別支援学級の増加や産休・育休取得者の増加により教員の需要が増えていることが挙げられる。加えて、教員一人当たりの授業の持ち時間の平均化や勤務時間の平準化といった働き方改革につながる理由も多いことが、教育委員会への調査によって分かっている。
 さらに今後は、少子化に伴い在籍する教師だけでは全教科をカバーしきれない小規模校が増えるとともに、特に中山間地域や離島の学校を多く抱える都道府県では、非常勤講師等の確保も困難になってくることが予想されている。
 したがって、今回の調査研究協力者会議による報告書でも、このような複合的な要因によって教員の需給がひっ迫している実態を鑑み、「免許外教科担任制度」を存続させるという弾力化を望むとともに、同制度の利用を可能な限り縮小させるため、次のような取り組みを行うことを要望している。

教委と大学間の連携強化などにより、複数教科の免許状取得を
 文部科学省の主な対応策としては、(1)複数教科の免許状の取得を促進するため、免許状の取得要件を弾力化すること。(2)教員採用数の少ない教科について、大学間の連携・協力により教育課程を設置する仕組みを検討すること。(3)退職教員や民間の人材が適時、適切に教壇に立てるよう、免許状更新講習の受講の弾力化や特別免許状や臨時免許状を積極的に活用すること。(4)遠隔教育システムの活用により、免許外教科担任の授業の質を向上させることなどを要請した。
 また、教育委員会に期待することとしては、(1)複数教科の免許状を有する者への採用選考の配慮。(2)免許状を保有する教員が少ない教科については、免許法認定講習の開講および現職の教員が受講しやすい環境の整備。(3)複数校兼務を行うための手続きや配置等の支援。(4)研修機会の充実や支援体制の強化などを挙げた。
 中でも(3)については「教育委員会によっては、小学校と中学校、高等学校と中学校といった学校種を超えた兼務や、設置者を異にする学校間の兼務を行っている場合もある」とし、一人の教員が複数校を兼務することで免許状を持った者が授業を担任することができ、より専門性の高い授業を児童生徒に提供することが可能になるとしている。
 一方、教員を養成する大学(通信制大学含む)に向けては、複数教科の免許状を取得しやすいようにすることや、免許法認定講習の開設への協力、採用数の少ない教科についての養成・研修機能の強化などを期待。その上で、教育委員会と大学とが双方の事情とニーズを踏まえて、養成、採用、研修等について協力することを望んでいる。

免許制度の在り方も見直す時代に
 このように、今回の報告書で複数教科の免許状の取得を促進するため、教員経験年数を単位数に換算したり、採用選考を配慮したりする弾力化を要請するのは、単に一人の教員で複数の学校種や教科を指導でき、配置がしやすくなるからという理由だけではない。
 新学習指導要領においては、児童生徒がこれからの社会において求められる資質能力を育成する観点から、各教科等を学ぶ意義と教科等横断的な視点、学校段階間の連携・接続の視点を踏まえて教育課程を編成することが求められており、このような幅広い指導力が重要性を増していくと考えられているからだ。
 その意味では、今後は教職大学院の学修において、複数の校種または教科にわたる幅広い指導力を育成することや、通信制教育を活用して他教科の免許を取得し、教員としての力量をアップするといった方法にも力を入れていくべきだろう。
さらに、こうした教員免許状取得の弾力化の流れは、林文部科学大臣の下で議論を進めてきた「Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」(平成30年6月5日)においても、小学校教員採用試験の倍率が低迷していることや、中学校・高等学校でも技術科、情報科のような特定教科の免許状を保有する教員が少ないことを踏まえ、指導体制の質・量両面にわたる充実・強化を図る観点から、免許制度の在り方を見直すことが示されている。
 これらに研修機会の充実や支援体制の強化、遠隔教育システムなど効率化できる仕組みを取り入れ、全国において格差のない教育の質の確保に努めてほしい。

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