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太平洋戦争下の全国の障害児学校 被害と翼賛

16面記事

書評

清水 寛 著
困難極めた疎開先への適応

 本書は、1941(昭和16)年12月~1945(昭和20)年8月の太平洋戦争の時期を中心に、その当時設置されていた障害児学校の教育活動や子どもたちの生活の実像と全体像を詳細かつ厳密に明らかにしたものであり、他に類を見ない。検討に用いられた史資料は、各学校が発行した記念誌(年史)、当時在職していた教職員へのアンケート調査や聞き取り調査など、実に多様で広範囲に及んでいる。日本国内の障害児学校にとどまらず、旧植民地台湾・朝鮮の障害児学校にも目を向けた、30年来の学術的研究成果である。
 分析対象となった全108校の障害児学校のうち、空爆の被害を受けたのが44校、集団疎開は34校である。視覚や聴覚に障害のある子どもたちにとって、空爆からの避難行動や疎開先への新たな適応は、極めて困難なものであった。
 戦況が悪化するとともに、勤労奉仕・勤労活動や防空壕づくりの活動が多くなっていった。盲学校卒業生は海軍技量手(マッサージ家としての軍属)として、聾唖学校卒業生は軍需工場での産業戦士として、戦争に協力・加担する者もいた。障害のために戦争の役に立てないという心理が、実に巧みに突かれて、戦争へと駆り立てられたのだ。障害児は、戦争下で多くの被害を受け、同時に、戦争を翼賛した。本書は、こうした歴史の真実を実証的に明らかにしたのである。
(7020円 新日本出版社)
(都筑 学・中央大学教授)

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