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「星野君の二塁打」を読み解く

14面記事

書評

奈良女子大学文学部<まほろば>叢書
功刀 俊雄・栁澤 有吾 編著
心理学等の視点から多角的に解釈

 4人が異なった分野から一つの作品を読み解くという興味深い取り組みをまとめた内容である。第1章が体育学・身体文化史から、第2章は教育学・教育思想史から、第3章は心理学・特に認知心理学から、そして第4章は哲学・倫理学から多角的に読み解くというチャレンジを歓迎したい。
 まずは、星野君はどのような少年として描かれていたのかを検討し、その作品の誕生について深掘りしている。また第2章は道徳教育と国語教育では教育的意図でどのように扱われてきたのか。第3章では、顕在化しているコロナ後の社会の転換への議論を展開。第4章では、大学や高校では物語に即した内在的な読み方が提示されている。
 1冊で4冊分が楽しめたようなお得感とともに、分野が異なると、これほどまでに解釈が異なるのかと驚いてしまった。変貌を繰り返してもなお、その歴史の裏にうごめく真相が見え隠れして、教材が利用されているようにも感じられる。
 独断でヒットを打って処分されることや、犠牲的精神にも、あの名著「失敗の本質」を想起させられた。監督の判断と星野君の判断がふるいにかけられるが、すっきり感は残らない。私が監督ならば厳しく注意はするが、ここまでの処分はしない。違う場面で説諭はする。その意味では、児童・生徒に質問をするのなら教師自身が答えを持って臨むべきである。
(1980円 かもがわ出版)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)

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