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教育と社会

18面記事

書評

未来の教育を創る教職教養指針 第4巻
油布 佐和子 編
現代的課題と可能性、第一人者が論ず

 教育の問題は社会を抜きに考えられない。教育には社会に適応させる<社会化>の機能が期待されると同時に、より良い社会へと変革させる可能性も秘めている。そもそも理想の社会を描けないと理想の教育も描けないはずだが、理想の社会とはSociety5・0なのだろうか。また、たとえ微力だとしても教育を通じて解決すべき社会的課題は何だろうか。
 本書は、リスク化(法化)する学校、デジタル革命や貧困の拡大、グローバル化による(教育)格差、排除といった状況を「現代的課題」として捉え、他方、<共生>の学校づくり、地域主義的転回、非行少年のセカンドチャンス、教育機会確保といった包摂の方向性に新たな可能性を見いだす。地域との<連携・協働>といった常套句のスローガンやコミュニティ・スクールといった施策を安易に解決策として提示するのではなく、教師教育の担当者や、これから教師となる者たちへ思考の道標となる「教職教養指針」として編まれたシリーズの一冊である。
 編著者をはじめとする錚々たる研究者に加え、木村泰子氏や前川喜平氏ら第一線で活躍中の諸氏が執筆に加わる贅沢な「教科書」である。著者たちが描く社会はシンギュラリティ後の世界のように地に足が着かないものではなく、人間に対する深い愛情と社会や歴史に対する造詣に満ちている。私たちは教育を語るとき、社会をもっと語らなければならない。
(2200円 学文社)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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