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スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険

15面記事

書評

谷川 嘉浩 著
「常時接続」時代、流されぬすべは

 いま私たちはインターネットやSNSで動く社会にいる。日々膨大な刺激にさらされており、デジタル社会とどう向き合うかは現代人の課題である。
 著者の専門は哲学であるが、他分野にも哲学の知識やスキルを生かそうと幅広く活動している。本書では、ニーチェの「君たちは自分を忘れて、自分自身から逃げようとしている」を引用し、スマホは手放せない時代という前提で、人間について考えていく。キーワードは「常時接続」。常時接続によって「孤独」や「孤立」を喪失したとする。哲学用語の「孤独」とは、自分自身と対話している状態のこと、「孤立」とは、他者から切り離されて何かに集中している状態のことと説明。そして、オルテガ、アーレントなどの哲学者だけでなく、「燃えよドラゴン」「新世紀エヴァンゲリオン」など多様な例を引きながら、私たちを哲学という大地に導いていってくれる。
 目次には、「自力思考が生み出すのは、平凡なアウトプット」「自分の中に多様な他者を住まわせる」「趣味は孤独をもたらす」「自分の奥底で眠る倦怠や不安から目を逸らすべきではない」などの興味深い言葉が並ぶ。
 デジタル漬けの生活は人間の認知や感覚を変えつつあることがよく理解でき、情報的健康を保つ「デジタル・ダイエット」の実践が必要なことを痛感させられる書である。
(1760円 ディスカヴァー・トゥエンティワン)
(大澤 正子・元公立小学校校長)

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