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HSPブームの功罪を問う

16面記事

書評

飯村 周平 著
感覚的捉え方の広がりを危惧

 本書の構成は、第1章「HSP『ブーム』の実情」、第2章「HSPブームの功罪」、第3章「『消費』されるHSPブーム」となっており、狙いはHSPブームの背景を考えること、さらに、このブームの功罪を問うことである。まず、HSPとはHighly Sensitive Personの略語で、「とても感受性の高い人」を意味する。心理学の「感覚処理感受性が高い」という、人間が持つ多様な感受性の一側面を客観的に表す用語であり、その優劣を見極める指標はない。しかし、日本では、「生きづらさ」などネガティブな側面が強調される傾向が強く、「HSP」を自認する芸能人等、知名度の高い人がSNS等で宣告する例が相次ぎ、一つの大きなムーブメントになっている。著者はこうした、学術的な研究に基づかない感覚的な捉え方が、さまざまな媒体で拡散されていることに危惧を抱いている。
 評者が注目したのは、最近では発達障害と関わって、「HSC」(Highly Sensitive Child「とても敏感な子」)という言葉が独り歩きし、保護者の中には、「わが子はHSCであり、発達障害ではない。特別な指導・支援は必要ない」とかたくなに支援等を拒むケースが増えているという指摘である。また、多くの教育委員会が教員研修会等でも取り上げており、著者が心理学等の科学的エビデンスに基づく冷静な対応が求められると提言している点を、心に留めたい。
(682円 岩波書店)
(新藤 久典・文部科学省学校業務改善アドバイザー)

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