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英語教育改革待ったなし 問われる教員の英語力

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 英語教育をめぐる動きが活発になっている。中学、高校に大学を加えて10年間授業を受けても日常会話も話せない―。金、人、モノが国境を越えて交差するグローバル時代を迎え、そんな従来の英語教育に対する風当たりが強まっているためだ。英語で行う授業が求められる中、教員自身の英語力がこれまで以上に問われている。

変われぬ授業、今が分岐点

 英語教育改革の有識者会議の初会合が開かれた今年2月、文科省3階の会議室は熱気を帯びていた。びっしりと埋まった傍聴者のせいだけではない。
 「英語教育改革は、やるべきかどうか議論する段階ではない。やらなければ日本にとって死活問題だ」
 委員の一人、楽天の三木谷浩史会長兼社長はそう語気を強め、インドネシアや中国など、日本の先を行く東アジアの英語教育を例に挙げながら危機感をあらわにした。
 教育現場に起きる急激な変化に警戒感を示す学校関係者とは対照的に、企業関係の委員からは、日本の将来を危ぶむ声も上がる。
 有識者会議の座長を務める吉田研作・上智大学教授は日本教育新聞社の取材に「長年、改革を求められながら変われなかった英語教育にとって、今が大きな分岐点であることは間違いない」と語る。
 現在の英語教育改革の発火点になったのは自民党の教育再生実行本部がまとめた提言だ。昨年4月に出した第1次提言では「英語教育の抜本的改革」を、理数教育の刷新や学校のICT環境整備と合わせた3本柱の筆頭に据えて強調した。
 「抜本改革」として、TOEFLなどでの一定以上の成績を大学入学や卒業の条件にすることを提案し、そのために英語教員の英語力についても採用条件にしたり、設定した目標をどの程度達成できているかを都道府県ごとに公表したりすることなどを求めた。
 これを引き継いだのが首相官邸に置かれた教育再生実行会議だ。昨年5月、小学校英語の導入とともに教員の英語力についても提言した。新たな英語教育を担う教員に必要なレベルとして、「TOEFLiBT80点程度以上」を取ることや、現職教員研修のための海外派遣を増やすよう求めている。

リーダー養成と研修で対応

 こうした経緯を経て、文科省が昨年末に公表した「英語教育改革実施計画」。これが今後の改革のメルクマール(指標)になる。そこでは、2020年(平成32年)の東京五輪・パラリンピック開催に合わせた新しい学習指導要領の実施を計画している。
 計画では、グローバル化に対応した英語教育の在り方として、現在の外国語活動を小学校3年生から前倒しし、5年生からは、読むことや書くことを含めた教科型の英語を導入する考えを示した。中学校でも英語による授業を取り入れ、高校卒業までにTOEFLiBTで57点程度、英検で2級以上の英語力を身に付けさせることを目標に掲げる。
 一方、教員の指導力向上に向けてもリーダー教員の養成と研修を柱とした6年間の計画を明記している。
 専門の免許状のない小学校では、専科教員の養成に力を入れ、中学や高校ではリーダー教員を中心とした校内研修で指導力の向上を図る狙いだ。
 この計画を下敷きに検討している英語教育改革の有識者会議は今後、教員の指導力向上や入試での外部試験活用に関する小委員会を設け、今秋の報告の取りまとめを目指し協議を行う。

ハードル上がる採用試験
TOEFLなどの点数所持を条件に

 これから教員を目指す人にとってもハードルは上がりそうだ。
 今年1月、文科省が全国の教育委員会宛てで通知を出し、教員採用試験に英検やTOEFLなどの外部検定で一定以上の点数の所持を条件とすることなどを求めたのだ。
 文科省の調査によると、昨年実施の平成26年度の採用選考で実技試験に英語を課している自治体は中学66、高校55県市に上るが、「英語の資格」による特別選考を実施したのは16県市、資格所持者に試験免除を行ったのは17県市にとどまる。
 しかし、今回の通知以降に公表された本年度実施の選考では、新たに英語資格所持者に対する優遇措置を行う自治体が、新潟県や新潟市、川崎市などのように出始めている。
 現職教員、教員志望者を問わず教員への英語力向上の要請がますます高まっている。

スケジュール

改革スケジュール
 英語教育改革実施計画が示したスケジュールでは、新学習指導要領の全面実施は6年後(2020年)としているが、先行実施の形で4年後から行う考えも示している。小学校で読むこと書くことを踏まえた教科型の英語については、拠点校を中心に取り組んでもらい、指導要領の実施までに地域の学校に広めてもらう計画だ。
 それを見据えた教員体制の整備をどのように進めるのか。専門の免許状のない小学校では今後、専科教員を養成するための研修を大学や独立行政法人教員研修センターで実施する。同時に英語教育のリーダー教員を加配措置や養成研修で確保していく。
 中学と高校では、英語教育のリーダー教員を軸とした学校ごとの研修を実施して、教員全体の指導力向上を目指すという。
 文科省は小学校高学年から教科型の英語が実施されることを前提に新教材の開発を年度内にも行い、学習指導要領改訂を待たずに来年度から新教材を使った授業を行うことも視野に入れている。

「英語が使える日本人」育成構想から10年超え
教員、生徒共に目標達成遠く

 中学校から大学まで英語を学びながら、使いこなして外国人と対等に議論できるような力を持っている人がそれほど多くない。こうした現状を打開しようと「英語が使える日本人」育成戦略構想が打ち出されてから10年を超えた。構想実現のためのキーポイントとされていた教員の英語力は伸びたのか―。
 「大事なのはそれを教える教員はどうするか。これは今まで大変ネックだった。英語教員の質という角度から英語教員が備えておくべき英語力の目標値を設定したい」
 平成14年7月、「英語が使える日本人」育成戦略構想が閣議決定された後の会見で文科大臣が、こう語った。
 この時の戦略構想は、「英語力・国語力増進プラン」と銘打たれ、国語の力が視野に入っていたのも特色だ。国民全体に求められる英語力については、中学校卒業段階であれば「あいさつや応対などの平易な会話(同程度の読む・書く・聞く)ができる(卒業者の平均が英検3級程度)」とし、高校卒業段階で「日常の話題に関する通常の会話(同程度の読む・書く・聞く)ができる(卒業者の平均が英検準2級〜2級程度)」、「国際社会に活躍する人材などに求められる英語力」は「各大学が、仕事で英語が使える人材を育成する観点から、達成目標を設定」などと、「達成目標」を示した。
 その一方で、「英語教員が備えておくべき英語力の目標値の設定(英検準1級、TOEFL550点、TOEIC730点程度)」を「目標設定」として示し、英語教員の採用の際に目標とされる英語力の所持を条件の一つとすることの要請や、教員の評価に当たり英語力の所持を考慮することの要請などを盛り込んだ。
 この戦略構想を実現するために策定したのが「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」である。平成15年度から19年度までの5カ年計画。
 同計画では、「英語教員の指導力向上及び指導体制の充実」を掲げ、具体的な目標を定めた。「概(おおむ)ね全ての英語教員が、英語を使用する活動を積み重ねながらコミュニケーション能力の育成を図る授業を行うことのできる英語力(英検準1級、TOEFL550点、TOEIC730点程度以上)及び教授力を備える」「地域レベルのリーダー的教員を中核として、地域の英語教育の向上を図る」「中・高校の英語の授業に週1回以上はネーティブスピーカーが参加する」「英語に堪能な地域の人材を積極的に活用する」が、それである。
 そのために全英語教員に対する集中的研修、海外研修の充実、優れたALTなどの正規教員への採用促進などの施策を用意した。
 5カ年計画の結果、中学3年生の英語力の目標だった「卒業者の平均が英検3級程度」の英語力を有している者は32・4%、高校3年生の目標だった「卒業者の平均が英検準2級から2級程度」は30・3%が有していた。
 一方、教員はどうか。
 教員の目標だった「英検準1級、TOEFL550点、TOEIC730点程度」と同程度の英語力を持つ中学校教員は18年度に24・8%、19年度には26・6%と1・8ポイントの伸び、同様に高校教員は18年度48・4%、19年度50・6%と2・2ポイントの伸び。
 しかし、生徒の英語力も、教員の英語力も、目標設定には遠く及ばなかった。
 後に文科省が設置した外国語能力の向上に関する検討会は、提言としてまとめた「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策〜英語を学ぶ意欲と使う機会を通じた確かなコミュニケーション能力の育成に向けて〜」(23年6月)の中で、「生徒や英語教員に求められる英語力など、必ずしも目標に十分に到達していないものもあり、真に英語が使える日本人を育成するためには、我が国の英語教育についてその課題や方策を今一度見直すことが必要である」と総括した。
 その上で、提言の4番目として「英語教員の英語力・指導力の強化や学校・地域における戦略的な英語教育改善を図る」ことを盛り込む。
 ここでも「行動計画」の目標に触れ、教員の英語力は「必ずしも十分ではない」と指摘。同時に、外部検定試験の受験の有無を引き合いに出し、外部検定試験を受験したことがない教員が中学校で約4割、高校で約3割と具体的な数字を挙げ「外部検定試験を受験し、自らの英語力を把握することは、教員としての自己研鑽(けんさん)につながる」などと英語力・指導力の強化を求めた。
 現状の改善は遅々として進んでいないようだ。

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