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ユーモア的即興から生まれる表現の創発

16面記事

書評

発達障害・新喜劇・ノリツッコミ
赤木 和重 編著
障害ある青年が新たな自分に出会う

 本書は、神戸大学で開催された表題と同一名のシンポジウム〔2016(平成28)年11月5日〕の記録である。
 シンポジウム当日は、二つの実践がライブで披露された。一つは、放送作家の砂川一茂さんとエコールKOBEで学ぶ障害のある5人の青年たちが演じるミニミニ体験新喜劇「犯人の説得」。もう一つは、特別支援学級のベテラン教師だった村上公也さんと、かつての教え子など5人(退職後に開いたイチゴママ塾の塾生たち)による「飛んで仮名文」。
 両者とも、あらかじめ用意されたシナリオ通りには進まず、想定外の事態が次々に起きる。それがまた、新たな展開を生み、会場はそのたびに爆笑の渦に包まれる。本書に付いているDVDを見れば、この二人と青年たちが繰り広げる世界の面白さと私たちの想像を超えた飛躍を堪能することができる。
 障害がある、なしにかかわらず、能力やスキルを身に付けることは大事だ。教育の世界において、遊びや楽しさはもっと大事である。砂川さんや村上さんは、障害という枠にはめて青年を見るのではなく、彼らの持つ可能性に全幅の信頼を寄せている。その優しく、温かいまなざしに見守られ、障害のある青年たちは、互いをよく知り合う仲間集団の中で、新しい自分を創っていく。本書は、その創発の姿を私たちに見せてくれるのである。
(2592円 クリエイツかもがわ)
(都筑 学・中央大学教授)

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